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最高裁判所第二小法廷 昭和38年(あ)2299号 判決

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人Aほか一三名の弁護人三浦久、同田代博之の上告趣意(昭和三八年一一月六日付のもの)第一点について。

所論は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、適法な上告理由に当らない。

同第二点について。

所論は、量刑不当の主張であつて、適法な上告理由に当らない。

被告人Aほか一三名の弁護人三浦久、同田代博之の上告趣意(昭和三八年一一月一〇日付のもの)について。

所論は、原判決に憲法二八条の解釈適用を誤つた違法がある旨を主張するけれども、原判決が、一審判決のした判示第二の各事実の認定をそのまま是認し、被告人らの本件各行為はいずれも憲法二八条によつて保障された団結権、団体行動権の限度をはるかに逸脱したものと判断したことは、当裁判所の判例(昭和二三年(れ)第一〇四九号、同二五年一一月一五日大法廷判決、刑集四巻一一号二二五七頁。昭和二二年(れ)第三一九号、同二四年五月一八日大法廷判決、刑集三巻六号七七二頁。)の趣旨に徴して相当であり、原判決にはなんら憲法二八条の解釈、適用を誤つた違法がないので、論旨は理由がない。

被告人Bの弁護人三浦久、同田代博之の上告趣意第一点について。

所論は、違憲(三二条)をいうけれども、一審で無罪判決を受けた被告人に対し、原審が事実の取調をした結果一審判決を破棄自判して有罪の言渡をしたことが、なんら憲法三二条に違反するものでないことは、当裁判所の判例(昭和二二年(れ)第四三号、同二三年三月一〇日大法廷判決、刑集二巻三号一七五頁。昭和二六年(あ)第二四三六号、同三一年七月一八日大法廷判決、刑集一〇巻七号一一四七頁。なお昭和三三年(あ)第二〇八二号、同三五年一二月八日第一小法廷判決、刑集一四巻一三号一八一八頁参照。)の趣旨に徴し明らかであるから、論旨は理由がない。

同第二点について。

所論は、事実誤認の主張であつて、適法な上告理由に当らない。

また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)

弁護人三浦久、同田代博之の上告趣意

第一点 原判決は憲法第三二条の解釈適用を誤つている。

原判決は第一審の無罪判決を破棄し、自ら被告人に対し、懲役三ケ月執行猶予の判決をしたが、第一審無罪判決に対し、破棄自判することは、憲法第三二条に保障された国民の裁判を受ける権利を侵害するものであり、許されない。

憲法に審級制度の存在を前提とし、これを是認する規定をおき(憲法第七六条一項、八一条)、また国民の裁判を受ける権利を保障している(憲法第三二条)。このことは被告人に裁判に関する不服申立の道を開くべきことは当然の帰結とするものであり、上訴制度の存在とともに被告人の上訴権の保障を是認したものということができる。

刑訴法第三五一条が同法上訴編の通則冒頭に控訴、上告を含めた上訴権として規定するのは、その具体化とみてよい。

ところで憲法並びに刑訴法上被告人に保障されるべき上訴権の内容は何か。

被告人が上訴することができるというのは有罪判決の要素たる「主文」(刑の言渡)

「罪となるべき事実」「証拠の標目及び法令の適用」について上訴することができるということに他ならない。すなわち、被告人の上訴権は、自己に対する有罪判決につき、事実誤認、法令適用の誤、訴訟手続の法令違反、量刑不当に関する不服申立を必要最少限の内容としなければならない。

一審有罪の被告人の場合には、これらの不服申立の途が開けていることは控訴に関する規定上明白であるが、二審ではじめて破棄自判有罪とされる被告人には、その途が全く閉ざされているのである。

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